ミッシェル・バテュ「私が作品に込めるメッセージ」
ミッシェル・バテュ画伯が身の周りのあらゆるものや事柄を通じて、「美しい」と感じる対象は何でしょうか。
私が美しいと感じる対象は”自然”そのものです。自然が織りなすさまざまな形態は、私が作品を作り上げていくうえで重要なインスピレーションを与えてくれるものであり、私が何者であるかを常に自覚させてくれます。私は自然を愛し、賞賛し、そして尊重しています。動物や植物、空や海・・・。幼いころから、こうしたものは常に私を強く惹きつけ、同時に敬意を思いやりの念を抱かせてくれるものだったんです。
しかしそれとは反対に、いまの世界は暴力にあふれ、私を不快な思いにさせることばかり。人間が美しい自然をこれ以上破壊することを私は何より恐れています。
ミッシェル・バテュ画伯の作品には、平穏で静謐な光景のなかに、ゆったりとした時間の流れを感じる人が多いといわれます。制作にあたっては、鑑賞する人たちにどのようなことを感じとってほしいと思っておられますか。
日本の皆さまに、私の作品からそうしたものを感じとっていただけているということは、実際に日本のお客様と触れあうなかからも感じています。それは私自身も望んでいることであり、本当に嬉しいですね。
作品を制作するアトリエは、外界の喧騒から切り離された本当に静かで穏やかな空間です。制作に集中しているときは、電話がかかってくることもなければ、誰かが訪れてくることもない。ひたすら静寂だけの空間で作品と向かい合っているのです。
もし騒がしさのなかに何時間も置かれて作品と向かい合わねばならないとしたら、私の美の”記憶の感情”は追い詰められ、思うような作品表現はできないでしょう。作品をご覧になってくださる方々には、私が過ごしている空間の静けさをぜひとも共有していただきたいと願っています。
世界各地を訪れていらっしゃいますが、もっともお好きな場所はどこですか。また最近では東南アジアの国々をお訪ねになったということですが、自然豊かな世界遺産や人々の信仰心が織りなす文化触れて、どんなことをお感じになりましたか。
私の人生において、旅はほんとうにかけがえのないものです。いままでさまざまな国を旅してきましたが、いつも旅先での喜びと感動を胸に持ち帰ってきては、それを皆さんと共有するべく作品づくりにとりかかるのです。
好きな場所は、私の住むパリの街はもちろんのこと、ニューヨークや東京もとても魅了される場所です。好きな場所をひとつだけ選ぶのは難しいですが、強いてあげるならベニス
でしょうか。近いうちにまたベニスを訪れる予定で、いまからとてもわくわくしています。
アジアでは最近、ミャンマー、タイ、そしてベトナムを訪れましたが、パリでは見ることのない色彩には大いに感動しました。きらびやかな仏教寺院にひしめくゴールド、赤、エメラルドグリーン、黄色。ベトナムのハロン湾のグレー。タイの森の深い緑、生き物たちの声・・・。まさにそこは神秘とさまざまな自然の宝庫でした。
私にとって、アトリエで絵を描いている以外の時間は、旅をしたり、娘たちや孫のシアムと穏やかに語り合ったり、あとは水泳、読書、そして友人たちに会うことが私の至福の時間。こうした時間が私をパラダイスへと誘い、次の創作までのリフレッシュとなるのです。
ミッシェル・バテュ画伯が、ぜひその風景や光景を残したいとお思いになる場所はありますか。
いま一番気にかかっている場所があるのですが、それは私自身が所有するバシュレスの屋敷なのです。
バシュレスはパリから車で1時間ほどの郊外にあり、長い間所有していましたので、たくさんの思い出が詰まった忘れられない大切な場所です。屋敷のある広大な敷地の中には小川も流れていて、美しい自然の宝庫。春には花々が咲き、夏の一面の緑には目を奪われます。秋にはクルミの木にたわわに実がなり、冬には雪が全てを覆い雪原が広がります。私の作品の中にもバシュレスの風景を描いたものが多くあります。
できれば皆さんをご招待して、ぜひこの風景をご覧に入れたいのですが、実は維持管理があまりに大変なので手放すことにしたのです。本当に残念な思いですが、先日ようやく買い手も決まりました。この屋敷をとりまく美しい環境がこれからも維持されるように祈るばかりです。
世界は混迷の時代を迎え、これまでになかったような争いや災害も増えています。こうした時代にあって、人々がよりよい未来に向かっていけるよう、アーティストとしてどのようなメッセージを作品に込めていきたいとお考えですか。
世界は本当に混沌とした状況になってきました。またどこかでテロや大きな戦争が起きないだろうかと、常に心配の種は尽きません。テレビを付ければ悲惨なニュースが毎日のように流され、政治においても国民全体が満足している状況とは言い難いでしょう。一人ひとりが秩序と責任を持ち、日々を穏やかに過ごせて行けるようにと願っています。
争いは不幸以外の何ものも生み出しません。一方的に誰かを傷つけることも、ただ自分の欲に任せて行動することも、やがては自らに哀しみを連れてくるだけです。私は美しい自然や風景を賞賛し、その思いを作品に込めていくことを決してやめることはありません。
私にとって、絵を描くことはこの上ない喜びであり、アーティストとしてのこの思いが、誰かの元へ届き続ける限り、私は一生涯作品を描き続けていくつもりです。